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黒田室長はAIを教えない 外伝

美咲は今日もAIに話しかける

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で、結局どれがいいんですか?

複数の提案資料を同じ物差しで比較し、自社の優先条件をAIへ渡して意思決定を支援させる。

読了時間 約10資料比較・意思決定

午前10時12分。

美咲のデスクには、三つのPDFが開かれていた。

一つ目。

A社 販売管理システム提案書.pdf

二つ目。

B社 販売管理クラウド見積書.pdf

三つ目。

C社 業務管理サービス導入資料.pdf

そして、その横にはExcel。

販売管理システム比較表.xlsx

美咲は画面を見ながら、完全に止まっていた。

「……多い」

A社、32ページ。

B社、27ページ。

C社、41ページ。

合計100ページ。

山内部長から言われた仕事は単純だった。

「三社比較して、どこが良さそうかまとめといて」

単純なのは言葉だけだった。

価格。

初期費用。

月額料金。

導入期間。

機能。

サポート。

セキュリティ。

契約期間。

オプション。

データ移行。

ページを行ったり来たりしているうちに、

「A社のバックアップってどこに書いてたっけ……」

もう分からなくなった。

美咲は時計を見る。

10時37分。

まだ比較表の一行目すら完成していない。

「……これ、今日中に終わる?」

そこへ佐伯が通りかかった。

「何してるの?」

「三社の提案書を比較してます」

「ふーん」

佐伯は美咲の画面を見る。

「全部読むの?」

「そのつもりです」

「100ページ?」

「……はい」

佐伯は少し考えた。

「AIに読ませれば?」

美咲は首をかしげた。

「PDFを?」

「うん」

「三つとも?」

「うん」

美咲はChatGPTを開いた。

三つの資料を添付する。

そして入力した。

この3社の資料を比較してください。

数秒後。

AIが回答を始めた。

A社は機能が充実している。

B社はコスト面に優れている。

C社はサポート体制が特徴的。

美咲は読む。

「…………」

それっぽい。

すごく、それっぽい。

でも。

「これじゃ部長に出せないな……」

美咲が困っていると、

後ろから声がした。

「何が出せない?」

黒田室長だった。

「三社の比較をAIにお願いしたんですけど」

美咲は画面を見せた。

黒田は数秒読む。

「なるほど」

そして言った。

「美咲」

「はい」

「君は何を比較したかったんだ?」

「え?」

「AIには『比較してください』としか言ってない」

「……はい」

「価格なのか、機能なのか、導入期間なのか。それとも総合評価なのか」

美咲は黙った。

黒田は続ける。

「比較っていうのはな」

画面を指さす。

同じ物差しで並べることだ

美咲はもう一度、三つのPDFを見る。

「同じ物差し……」

「AIに資料を読ませるだけじゃ仕事にはならない」

「じゃあ……」

「比較する基準を決める」

黒田はそれだけ言って、自分の席へ戻った。

「また答え教えてくれない……」

美咲は小さくつぶやいた。

でも。

今回は少し分かった。

まずExcelを開く。

比較項目を書き出した。

| 比較項目 | A社 | B社 | C社 | |---|---|---|---| | 初期費用 | | | | | 月額費用 | | | | | 導入期間 | | | | | 主な機能 | | | | | データ移行 | | | | | サポート | | | | | セキュリティ | | | | | 契約期間 | | | | | 注意点 | | | |

「これなら比較できるかも」

美咲はAIへの頼み方を変えた。

添付したA社・B社・C社の資料を比較してください。

次の項目について、3社を同じ基準で比較してください。

・初期費用
・月額費用
・導入期間
・主な機能
・データ移行
・サポート体制
・セキュリティ
・最低契約期間
・追加費用が発生する条件

表形式で整理してください。

また、資料に記載されていない項目については推測せず、
「資料内に記載なし」
としてください。

それぞれの情報について、可能であれば根拠となる資料名とページも記載してください。

AIが回答を始める。

今度は違った。

三社が同じ項目で横並びになっている。

「おお……」

美咲は思わず声を出した。

でも、まだ終わらない。

AIの回答と元資料を見比べる。

A社の初期費用。

PDFを確認。

合っている。

B社の月額費用。

確認。

合っている。

C社のデータ移行。

AIには、

資料内に記載なし

と書かれている。

「……本当にない?」

検索する。

ない。

「これ、便利だな」

これまでの美咲なら、

AIが作った表をそのままExcelに貼って終わっていたかもしれない。

でも第1話で覚えた。

AIの出力は、人が確認する。

美咲は重要な数字だけ、原文を確認していった。

しばらくして比較表が完成した。

だが。

ここで新しい問題が出てきた。

「で……」

美咲は三社を眺める。

「結局、どれがいいんだ?」

比較はできた。

でも選べない。

美咲は再びAIに入力した。

この3社の中で、一番おすすめの会社を教えてください。

AIはA社を推した。

理由は機能の充実度。

美咲は首をかしげる。

「でもA社、高いんだよな……」

そこへ佐伯。

「どう?」

「比較表はできました。でもAIにおすすめを聞いたらA社って」

佐伯は画面を見る。

「会社は何を重視してるの?」

「え?」

「一番機能が多い会社を選びたいの?」

「いや……」

美咲は山内部長から言われたことを思い出した。

今回のシステム導入予算。

できれば初期費用は抑えたい。

現場のITスキルは高くない。

そして三か月以内に導入したい。

「あ」

美咲は気づいた。

会社を選ぶ条件を、AIに教えていない。

AIが悪いわけではない。

判断材料を渡していなかったのだ。

そこで、もう一度頼んだ。

先ほどの比較結果を使って、当社に最も適している会社を評価してください。

今回、当社が重視する条件は次の通りです。

  1. 初期費用をできるだけ抑える
  2. 3か月以内に導入できる
  3. ITに詳しくない社員でも使いやすい
  4. 導入後のサポートを重視する
  5. 高度な機能より、日常業務で必要な機能を優先する

各項目を5点満点で評価し、理由を説明してください。

最後に、

・最も適している会社
・その理由
・導入前に確認すべき事項

を整理してください。

ただし、資料から判断できない項目については推測せず
「要確認」としてください。

AIが評価表を作る。

今度はB社が一位になった。

美咲は結果を見る。

「なるほど……」

A社が悪いわけではない。

C社が悪いわけでもない。

自分たちの条件なら、B社が合っている。

それだけだった。

午後2時。

美咲は山内部長のところへ行った。

「三社比較、できました」

「早いな」

「比較表と、選定理由をまとめています」

山内は資料を見る。

A社。

B社。

C社。

価格。

導入期間。

サポート。

そして最後に、

推奨:B社

と書いてある。

「なんでB社?」

山内が聞いた。

美咲は答える。

「機能だけならA社です。ただ、今回の条件では初期費用と導入期間、それから現場サポートを重視した方がいいと思いました」

「うん」

「なので、その基準で比較するとB社が一番合っています。ただ、データ移行費用だけ資料に記載がないので、そこは確認が必要です」

山内は少し黙った。

「いいじゃん」

「ありがとうございます」

席に戻る途中。

黒田室長が美咲を呼び止めた。

「決まったか?」

「B社です」

「AIが決めたのか?」

美咲は少し考えた。

そして、

「違います」

と答えた。

「AIには比較してもらいました」

黒田を見る。

何を大事にするかを決めたのは、私です

黒田は少しだけ笑った。

「それでいい」

美咲は席へ戻った。

100ページの資料を、

AIなら数分で整理できる。

でも。

100ページ読ませたからといって、

AIが正しい答えを知っているわけじゃない。

何を見るのか。

何を比べるのか。

そして、

何を大切にして決めるのか。

そこまでAIに渡して、

ようやくAIは仕事の相棒になる。

美咲は今日もAIに話しかける。

昨日より少しだけ、

頼み方を知った自分で。

美咲AIノート

今日のテーマ

複数資料をAIで比較・分析する

AIに大量の資料を渡して、

「比較して」

だけでも回答は返ってきます。

でも、実務で必要なのは、

「何を基準に比較するのか」

を決めることです。

最初の頼み方

この3社の資料を比較してください。

これでは、AI自身が「何を重要と考えるか」を補って回答する可能性があります。

改善したプロンプト

添付した3社の資料を比較してください。

「初期費用・月額費用・導入期間・機能・サポート・セキュリティ・契約期間」の同じ項目で比較し、表形式で整理してください。

資料に記載されていない情報は推測せず「資料内に記載なし」としてください。

可能であれば、根拠となる資料名・ページも示してください。

さらに「どれを選ぶか」まで考えさせるなら、

自社が何を重視しているのか

もAIに渡します。

当社では「価格・導入スピード・使いやすさ・サポート」を重視します。この条件で各社を評価してください。

これで、

資料の要約

から、

意思決定を助ける分析

へ変わります。

使用時の注意

AIに資料を読ませる場合は、会社の情報管理ルールを必ず確認します。

顧客情報、個人情報、機密情報、未公開情報などを、許可なく外部AIサービスへ入力してはいけません。

また、金額・契約条件・納期など重要な情報は、AIの回答だけで判断せず、必ず元資料を確認します。

今日のひとこと

「AIに選ばせる前に、自分たちの物差しを決める。」

今日、美咲が覚えたこと

AIは100ページを読める。
でも、何を大切にするかまでは決めてくれない。

比較はAIに任せられる。
判断基準を作るのは、人の仕事。

前の話

第4話「そのExcel、本当に人がやる仕事ですか?」

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次の話

第6話「この長い資料、全部読まないとダメですか?」