午前九時七分。
美咲はメールに添付されたExcelファイルを保存した。
ファイル名は、
『営業一課_週間実績.xlsx』
その三分後。
またメールが届く。
『営業二課_週間実績.xlsx』
さらに五分後。
『営業三課_週間実績_修正版.xlsx』
美咲は三つのファイルをデスクトップに並べた。
「……始まった。」
毎週木曜日。
美咲には、決まってやってくる仕事があった。
営業部の週間実績集計だった。
各営業課から送られてくるExcelには、一週間分の実績が入力されている。
担当者名。
訪問件数。
商談件数。
見積提出件数。
受注件数。
受注金額。
それを一つの集計ファイルへまとめる。
課ごとの数字を転記する。
合計する。
前週と比較する。
目標との差を見る。
数字が大きく変わったところにはコメントを付ける。
最後にグラフを更新して、営業部長へ送る。
難しい仕事ではない。
少なくとも、美咲はそう思っていた。
問題は、時間がかかることだった。
美咲は、
『営業一課_週間実績.xlsx』
を開いた。
次に、
『営業週間実績_全体.xlsx』
を開く。
二つのExcelを横に並べる。
営業一課の合計セルを確認する。
コピー。
全体ファイルへ移動する。
貼り付け。
次の数字。
コピー。
貼り付け。
コピー。
貼り付け。
「訪問、八十七……商談、三十二……見積、十八……。」
一課が終わる。
二課を開く。
また同じ作業をする。
三課を開く。
また同じ作業。
十五分ほど経ったところで、美咲の手が止まった。
三課の受注金額が、
『12,480』
となっている。
「これ、千円単位だっけ。」
一課を見る。
『8,920,000』
二課を見る。
『10,310,000』
美咲は三課のファイルへ戻った。
表の上に小さく、
『単位:千円』
と書いてある。
「なんで三課だけ……。」
12,480。
つまり、一千二百四十八万円。
美咲は全体ファイルへ、
『12,480,000』
と入力した。
午前九時四十二分。
営業四課からメールが届いた。
件名は、
『週間実績です』
添付ファイルを開く。
先週までと列の順番が変わっていた。
担当者名。
訪問件数。
見積提出件数。
商談件数。
受注件数。
受注金額。
「商談と見積、逆になってる……。」
危なかった。
いつもの位置だけを見てコピーしていたら、数字を間違えていた。
美咲は慎重に項目名を確認した。
コピー。
貼り付け。
コピー。
貼り付け。
十時十五分。
ようやく四課まで終わった。
残りは五課。
しかし、まだファイルが届いていない。
美咲はメールを確認した。
届いていない。
チャットを見る。
連絡もない。
「またか……。」
五課は、よく提出が遅れる。
美咲は営業五課の担当者へチャットを送った。
『お疲れさまです。週間実績のExcelですが、本日分をご共有いただけますでしょうか。』
送信。
その間に、集計済みの数字を確認する。
営業一課。
営業二課。
営業三課。
営業四課。
合計。
前週比。
目標比。
Excelには数式が入っている。
数字を貼り付ければ、自動で計算される。
「ここは楽なんだけどな。」
美咲は前週比の列を見た。
営業二課。
受注金額。
前週比、マイナス四十二パーセント。
赤く表示されている。
「かなり下がってる。」
コメント欄へ、
『前週比▲42%』
と入力しかけて、止まった。
それは、見れば分かる。
部長が知りたいのは、なぜ下がったのかだ。
美咲は営業二課のファイルを開いた。
担当者別の数字を見る。
先週のファイルも開く。
比較する。
「田中さんの受注が減ってる?」
でも、それだけでは理由が分からない。
案件が失注したのか。
翌週へずれたのか。
大型案件が先週に集中していただけなのか。
数字だけでは判断できなかった。
美咲は営業二課の課長へチャットを送った。
『今週の受注金額が前週比で大きく減少していますが、主な要因があれば教えていただけますでしょうか。』
送信。
午前十時三十八分。
美咲は椅子にもたれた。
まだ終わらない。
ファイルを集める。
開く。
項目を確認する。
単位を確認する。
コピーする。
貼り付ける。
計算結果を見る。
大きな変化を探す。
理由を聞く。
コメントを書く。
グラフを更新する。
メールを作る。
毎週、同じことをしている。
「これ……。」
美咲はふと思った。
「AIにやってもらえないのかな。」
AIチャットを開く。
第1話の頃なら、少し緊張していた。
今はもう、仕事でAIへ話しかけること自体には慣れている。
入力する。
『毎週、複数のExcelファイルから営業実績を集計しています。
この作業を自動化できますか?』
送信。
AIは答えた。
『はい。自動化できます。
方法としては、ExcelのPower Query、VBA、Pythonなどが考えられます。
たとえばPythonを使えば、複数のExcelファイルを読み込み、一つの表へ統合して集計できます。』
続けて、コードのようなものが表示された。
美咲は画面を見た。
import pandas as pd
「……。」
さらに知らない文字が並ぶ。
glob
concat
groupby
美咲はスクロールした。
「待って待って待って。」
自動化したかった。
でも、突然プログラマーになりたかったわけではない。
美咲は入力した。
『私はプログラミングができません。』
AIはすぐ答えた。
『プログラミングを使わずに自動化する方法もあります。ExcelのPower Queryを使う方法がおすすめです。』
今度は、
『データ』
『データの取得』
『フォルダーから』
という説明が始まった。
美咲は途中まで読んだ。
確かにできそうだった。
でも、何か引っかかった。
三課だけ単位が違った。
四課は列の順番が変わっていた。
五課はまだファイルを送っていない。
受注金額が下がった理由は、Excelには書かれていない。
「これ、全部自動化できるの?」
美咲はAIへ聞いた。
『課によってExcelの列の順番が違うことがあります。
金額の単位が円のファイルと千円のファイルがあります。
提出が遅れる課もあります。
前週比が大きく変化した場合は、その理由を担当者へ確認しています。
これも全部自動化できますか?』
少し待って、回答が返ってきた。
『すべてを一度に自動化するのではなく、作業を分解して考えることをおすすめします。』
美咲の指が止まった。
「作業を分解……。」
昨日、PowerPointの前で覚えた言葉だった。
そのとき。
「何を自動化するんですか。」
聞き慣れた声がした。
美咲は振り返った。
黒田だった。
「この週間実績です。」
「週間実績の何を?」
「集計です。」
「集計とは?」
美咲は少し困った。
「Excelをまとめることです。」
「まとめるとは?」
「……。」
黒田は何も言わない。
また始まった。
美咲は自分の作業を思い出した。
「各課からExcelを集めます。」
黒田はうなずいた。
「ファイルを開きます。」
「はい。」
「項目と単位を確認します。」
「はい。」
「全体ファイルへ数字を移します。」
「はい。」
「合計と前週比を出します。」
「はい。」
「数字が大きく変わっているところを探します。」
「はい。」
「理由が分からなければ担当者に聞きます。」
「はい。」
「コメントを書きます。」
「はい。」
「グラフを更新して、部長へ送ります。」
黒田は言った。
「九個ありますね。」
美咲は数えた。
確かに九個あった。
「私、一つの仕事だと思っていました。」
「週間実績を作る、という名前を付ければ一つです。」
「でも実際には九個。」
「今挙げただけでも、です。」
美咲はAIチャットを見た。
自分は、
『この作業を自動化できますか?』
と聞いた。
でも、その「作業」の中には、まったく違う仕事が混ざっていた。
「じゃあ、一個ずつ自動化すればいいんですか?」
美咲が聞いた。
黒田は答えた。
「なぜ自動化するんですか。」
「時間がかかるからです。」
「どこに?」
美咲は止まった。
「全部です。」
「本当に?」
まただ。
黒田はこういうとき、絶対に答えを言わない。
美咲は時計を見た。
今日、何に時間を使っただろう。
一課から四課の数字をコピーする。
二十分ほど。
単位や列を確認する。
数分。
五課を待つ。
これは作業時間ではない。
二課の数字が下がった理由を調べる。
まだ回答待ち。
グラフ。
数分。
メール。
数分。
「コピーしている時間が長いです。」
「では、そこから考えればいい。」
「でも、単位が違ったり、列が変わったりします。」
「なぜ違うんですか。」
「各課が、それぞれExcelを作っているからです。」
「では、自動化より先にやることがあるかもしれませんね。」
美咲は黒田を見た。
「Excelを統一する?」
黒田は答えなかった。
でも、少しだけ口元が動いた。
美咲はノートを開いた。
中央に、
『週間実績』
と書く。
その下に、作業を並べた。
一、ファイルを受け取る。
二、提出漏れを確認する。
三、形式を確認する。
四、数字を集める。
五、合計・比較する。
六、異常値を見つける。
七、理由を確認する。
八、コメントを書く。
九、グラフとメールを作る。
美咲はAIへ入力した。
『毎週行っている営業実績集計を、次の9つの作業に分解しました。
- 各課からExcelファイルを受け取る
- 提出漏れを確認する
- ファイルの項目・単位・形式を確認する
- 各課の数字を一つの集計表へ転記する
- 合計・前週比・目標比を計算する
- 大きく変化した数字を見つける
- 変化の理由を担当者へ確認する
- コメントを書く
- グラフを更新し、報告メールを作る
私はプログラミング初心者です。
この9つについて、
・そのまま人がやるべきもの
・Excelの機能で自動化しやすいもの
・AIに支援してもらいやすいもの
・業務ルールを変えた方がよいもの
に分類してください。
理由も説明してください。』
送信。
今度の回答は、さっきとはまったく違った。
AIは、作業ごとに整理した。
ファイルを受け取る。
提出方法を統一すれば、自動化しやすい。
提出漏れを確認する。
提出先やファイル名を統一すれば、確認を簡略化できる。
形式を確認する。
入力フォーマットを統一する方が先。
数字を転記する。
Power Queryなどで自動化しやすい。
合計・比較。
Excelの数式で自動化しやすい。
大きく変化した数字を見つける。
条件付き書式や数式で候補を自動抽出できる。
理由を確認する。
担当者への確認が必要。
コメントを書く。
確認した理由をもとにAIで文章を整えることができる。
グラフと報告メール。
グラフ更新はExcel、文章作成はAIで支援できる。
美咲は画面を見た。
「全部AIじゃない。」
黒田が言った。
「何がですか。」
「自動化です。」
「はい。」
「AIを使わないところの方が多いでしょう。」
確かにそうだった。
美咲は、もう一つ気づいた。
「室長。」
「はい。」
「私、AIに自動化してもらおうとしていました。」
「そうですね。」
「でも、Excelの数式でできるところもあるし、そもそもファイルを統一した方がいいところもある。」
「はい。」
「人に確認しないと分からないところもある。」
「はい。」
「じゃあ……AIを使うことが目的じゃない?」
黒田は少しだけ笑った。
「私はAIを教えません。」
「そこじゃなくて。」
「では、自分で答えてください。」
美咲はノートを見る。
目的は、AIを使うことではない。
週間実績を、早く、正確に作ること。
そのために必要ならExcelを使う。
必要ならAIを使う。
必要なら業務ルールを変える。
人が判断した方がいいところは、人がやる。
「仕事を楽にする方法を考えるのが先です。」
「そうですね。」
「AIは、その方法の一つ。」
黒田は答えなかった。
でも、美咲にはそれで十分だった。
午前十一時二十分。
営業五課からファイルが届いた。
『遅くなってすみません!』
美咲はファイルを開いた。
そして、思わず笑った。
ファイル名は、
『Book1.xlsx』
「まずここからだな……。」
昼休み。
美咲は週間実績の改善案を作った。
いきなり自動化するのはやめた。
まず、入力フォーマットを一つにする。
列の順番を固定する。
金額単位を円に統一する。
ファイル名を、
『営業○課_YYYYMMDD.xlsx』
に統一する。
提出場所もメールではなく、共有フォルダ一か所にする。
そして、入力セル以外は触らない。
美咲はAIへ相談した。
『営業各課が毎週提出する実績Excelの入力ルールを統一したいです。
現在は、
・列の順番が違うことがある
・金額単位が円と千円で混在する
・ファイル名が統一されていない
・メールで個別に送られてくる
・過去ファイルをコピーして使うため、列が追加・削除されることがある
という問題があります。
将来自動集計しやすいように、入力ルール案を作ってください。
営業担当者の入力負担はできるだけ増やさないでください。』
AIはルール案を作った。
美咲はそれをそのまま使わなかった。
営業担当が毎週入力するなら、面倒なルールは守られなくなる。
入力項目を減らす。
説明を短くする。
選択できるところは選択式にする。
日付の形式を統一する。
金額は円。
列の追加は禁止。
備考欄を一つだけ用意する。
美咲は、自分たちの仕事に合う形へ直した。
午後一時十五分。
営業二課の課長から返信が来た。
『先週は大型案件の受注があったため、今週が通常水準です。失注が増えたわけではありません。』
美咲はなるほどと思った。
前週比マイナス四十二パーセント。
数字だけ見れば悪く見える。
でも、実際には今週が悪いのではない。
先週が特別によかった。
美咲はAIへ入力した。
『営業部長向けの週間実績コメントを作ります。
事実:
・営業二課の今週受注金額は前週比42%減
・先週は大型案件の受注があった
・今週は通常水準
・失注増加が原因ではない
不必要に悲観的にならず、数字の変化と理由が分かるように、50文字程度で書いてください。』
AIは回答した。
『営業二課の受注金額は前週比42%減。先週の大型案件受注による反動で、今週は通常水準となっています。』
美咲は少し直した。
『営業二課は前週比42%減。先週の大型案件受注の反動であり、今週は概ね通常水準です。』
集計表へ入れる。
ここはAIが役に立った。
理由を考えたのはAIではない。
事実を確認したのもAIではない。
確認した事実を、短く伝わる文章へ整える。
そこを手伝ってもらった。
午後二時。
美咲は週間実績を完成させた。
いつもより劇的に早くなったわけではない。
今日はまだ、何も自動化していないからだ。
でも、来週から何を変えればいいのかは分かった。
美咲はノートに三つの見出しを書いた。
『やめる』
『自動化する』
『人がやる』
やめる。
課ごとに違うExcel。
メール添付での提出。
単位の混在。
毎週の手作業コピー。
自動化する。
ファイルの読み込み。
集計。
前週比。
目標比。
変化の大きい数字の抽出。
グラフ更新。
人がやる。
数字の意味を確認する。
理由を担当者へ聞く。
報告すべき内容を判断する。
最終確認する。
美咲は、その三つをしばらく眺めた。
黒田が通りかかった。
美咲は呼び止めた。
「室長。」
「はい。」
「自動化する仕事、決まりました。」
黒田はノートを見る。
「ずいぶん減りましたね。」
「最初は全部自動化しようとしていました。」
「はい。」
「でも、そもそもやめた方がいい作業がありました。」
「はい。」
「人が判断した方がいいところもありました。」
「はい。」
「残ったところだけ、自動化します。」
黒田は言った。
「それなら、失敗しにくいでしょうね。」
「最初からAIに『全部自動化して』って言うのは駄目ですか?」
「できるかもしれません。」
「え。」
「でも。」
黒田は美咲のノートを指した。
「あなた自身が仕事を説明できないのに、自動化された結果が正しいか判断できますか。」
美咲は黙った。
確かに。
もしAIが、三課の『12,480』をそのまま一万二千四百八十円として集計していたら。
もし四課の列が入れ替わっていることに気づかなかったら。
もし受注金額が四十二パーセント減ったことを、
『業績悪化』
と判断していたら。
自動化できたとしても、間違いに気づけない。
「できることと、任せられることは違う。」
黒田が言った。
美咲はその言葉をノートへ書いた。
「それ、黒田メモっぽいですね。」
「何ですか、それは。」
「秘密です。」
「そうですか。」
黒田は自分の席へ戻っていった。
午後四時三十分。
美咲は営業各課へ送る、来週からの入力ルール案を作った。
まだ送らない。
まず山内へ相談する。
業務ルールを変えるなら、自分一人では決められない。
そのうえで、来週は統一したExcelを使ってみる。
問題がなければ、その次に集計を自動化する。
一気に完成させない。
一つずつ変える。
PowerPointのときと同じだった。
大きな仕事を、小さな仕事へ分ける。
違うのは、今回は資料ではなく、仕事そのものを分けたことだった。
美咲はAIチャットを開いた。
最後に、一つ質問した。
『今まで毎週行っていた作業を自動化したいと思っています。
ただし、一度に全部変えるのではなく、
- 入力フォーマットを統一する
- 共有フォルダへ提出する
- 複数ファイルの集計を自動化する
- 前週比や目標比から確認対象を抽出する
- 人が理由を確認する
- AIで報告コメントの文章を整える
- 人が最終確認して報告する
という順番で改善したいです。
この進め方で起こりそうな問題と、事前に確認すべきことを指摘してください。
計画を褒める必要はありません。
失敗しそうな点を優先して教えてください。』
送信する。
AIは、いくつもの注意点を返した。
フォーマット変更を営業担当が守れるか。
過去ファイルとの互換性。
共有フォルダへのアクセス権。
同じファイルを複数人が編集した場合。
空欄や文字列が入った場合。
提出期限を過ぎたファイルの扱い。
修正版が届いた場合の扱い。
自動集計後の確認方法。
元データと集計結果を照合する方法。
美咲は一つずつメモした。
昨日と同じだ。
AIに、
「できますか」
と聞くだけではない。
「どこで失敗しますか」
と聞く。
それだけで、見えるものが変わる。
午後五時四十五分。
美咲はパソコンを閉じた。
今日、AIはExcelを一つも操作していない。
マクロも作っていない。
プログラムも書いていない。
それでも美咲は、昨日より自動化に近づいた気がした。
自動化とは、ボタンを押せば仕事が消える魔法ではない。
仕事を見て。
分けて。
やめられるものをやめて。
揃えられるものを揃えて。
機械に任せられるところを決める。
そして、人が判断するところを残す。
その順番だった。
美咲は今日のノートの最後に、一行だけ書いた。
『AIに仕事を任せる前に、自分がその仕事を説明できるようになる。』
今日もまた一つ、AIへの話しかけ方を覚えた。
美咲AIノート
今日のひとこと
自動化は、「今やっている作業を全部機械にやらせること」ではない。まず、仕事そのものを整理する。
今日、美咲が覚えたこと
毎週繰り返している仕事を見ると、
「全部自動化したい」
と思いやすい。
しかし、一つの業務の中には違う種類の仕事が混ざっている。
今回の週間実績なら、
・ファイルを受け取る
・形式を確認する
・数字を転記する
・計算する
・変化を見つける
・理由を確認する
・文章を書く
・報告する
という複数の仕事があった。
まず、それぞれを分ける。
自動化する前の4分類
仕事を分けたら、次の四つに分類してみる。
一、やめられる仕事
そもそも必要なのか。
例:
・同じ数字を複数ファイルへ転記する
・メール添付を毎回保存する
・人によって違う形式を直す
二、ルールを変えた方がよい仕事
自動化する前に、やり方を揃えた方がよいもの。
例:
・Excelの列順を統一する
・金額単位を統一する
・ファイル名を統一する
・提出場所を一か所にする
三、機械へ任せやすい仕事
ルールが明確で、同じ処理を繰り返すもの。
例:
・複数ファイルの読み込み
・合計
・前週比
・目標比
・条件に合う数字の抽出
・定型グラフの更新
Excelの数式、Power Query、VBA、Pythonなど、AI以外の方法が適している場合もある。
四、人が判断する仕事
数字だけでは答えが出ないもの。
例:
・数字が変化した理由を確認する
・異常なのか一時的な変化なのか判断する
・誰へ確認するか決める
・何を報告すべきか判断する
・最終結果が正しいか確認する
AIは判断材料を整理できる。
しかし、事実を知らなければ理由を勝手に推測する可能性がある。
最初の頼み方
『毎週、複数のExcelファイルから営業実績を集計しています。この作業を自動化できますか?』
この質問でもAIは答えられる。
しかし、
Power Query。
VBA。
Python。
など、方法の説明から始まる可能性がある。
問題は、
「何を自動化するべきなのか」
がまだ決まっていないこと。
改善したプロンプト
あなたは業務改善を支援する担当者です。
私は毎週、営業実績を集計しています。
現在の作業は次の通りです。
- 各部署からExcelファイルを受け取る
- 提出漏れを確認する
- 項目、単位、形式を確認する
- 各部署の数字を集計表へ転記する
- 合計、前週比、目標比を計算する
- 大きく変化した数字を抽出する
- 変化の理由を担当者へ確認する
- 報告コメントを書く
- グラフを更新する
- 上司へ報告する
この業務を、
・やめられる作業
・業務ルールを変更した方がよい作業
・Excelなどで自動化しやすい作業
・AIで支援しやすい作業
・人が判断すべき作業
に分類してください。
それぞれについて、
・分類した理由
・改善方法
・自動化する場合の注意点
を説明してください。
いきなりツールやプログラムを提案するのではなく、まず現在の業務そのものに無駄がないかを確認してください。
AIに「方法」より先に聞くこと
いきなり、
『どうやって自動化しますか?』
と聞く前に、
『この仕事の中で、そもそも不要な作業はありますか?』
『ルールを統一すれば消せる作業はありますか?』
『人が判断しなければならない部分はどこですか?』
『自動化すると危険な部分はどこですか?』
『この業務を自動化する前に、決めるべきルールを挙げてください』
と聞いてみる。
方法を決めるのは、その後でもよい。
Excelを自動化するときに確認すること
・列名は毎回同じか
・列の順番は同じか
・単位は統一されているか
・日付形式は統一されているか
・空欄はどう扱うか
・文字が入った場合はどうするか
・提出されなかった場合はどうするか
・修正版が届いた場合はどうするか
・同じファイルが二つある場合はどうするか
・集計結果が正しいか確認する方法はあるか
・元データへ戻れるか
・誰が最終確認するか
自動化では、
「正常なときに動くか」
だけでなく、
「想定外のときにどうするか」
を決めておく。
AIへ数字の理由を勝手に考えさせない
悪い例。
『営業二課の売上が42%減りました。理由を書いてください。』
AIは事実を知らない。
そのため、
市場環境。
営業活動。
競合。
季節要因。
など、もっともらしい理由を作る可能性がある。
先に人が事実を確認する。
今回なら、
・前週は大型案件の受注があった
・今週は通常水準
・失注増加が原因ではない
という事実を確認した。
その後で、
『この事実を50文字程度の報告コメントへ整理してください』
と頼む。
事実確認は人。文章整理はAI。
役割を分ける。
自動化の進め方
最初から全部を自動化しない。
たとえば、
STEP 1
入力フォーマットを統一する。
↓
STEP 2
提出方法を統一する。
↓
STEP 3
数字の集計だけ自動化する。
↓
STEP 4
変化の大きい数字を自動抽出する。
↓
STEP 5
人が理由を確認する。
↓
STEP 6
AIでコメント作成を支援する。
↓
STEP 7
人が最終確認する。
小さく始める。
問題がなければ、次の工程へ進む。
自動化した後にAIへ聞くプロンプト
以下の業務改善案について、失敗する可能性をレビューしてください。
計画を褒める必要はありません。
次の観点から問題を指摘してください。
・想定していない入力
・担当者がルールを守らなかった場合
・データ欠損
・重複データ
・修正版の扱い
・アクセス権
・誤集計
・自動化が停止した場合
・元データとの照合方法
・責任者が不明確な工程
それぞれについて、
- 起こりうる問題
- 影響
- 事前に決めるルール
- 確認方法
を整理してください。
使用時の注意
会社のExcelをAIへそのままアップロードできるとは限らない。
会社の情報管理ルールを確認する。
特に、
・顧客名
・担当者名
・売上情報
・取引金額
・個人情報
・未公開の業績情報
などが含まれる場合は注意する。
必要であれば、
『営業一課』
『A社』
『担当者A』
などへ置き換える。
AIが便利だからという理由だけで、会社のデータを外部サービスへ入力しない。
美咲の一歩
今日は、Excelを自動化するつもりだった。
毎週同じ作業をしている。
だから、AIに任せれば全部なくなると思った。
でも、仕事を書き出してみると、
なくした方がいい作業。
ルールを変えた方がいい作業。
Excelに任せられる作業。
AIに手伝ってもらえる作業。
人が判断する作業。
が混ざっていた。
私は「週間実績を作る」という一つの仕事をしているつもりだった。
本当は、小さな仕事をいくつもつないでいた。
AIに全部を任せる必要はなかった。
むしろ、全部を任せようとすると、自分でも何が正しいのか分からなくなる。
自動化する前に、仕事を説明する。
仕事を説明するために、仕事を分ける。
仕事を分けると、いらない作業が見えてくる。
いらない作業を消した後で、残ったものを自動化する。
今日、Excelはまだ一秒も自動化されていない。
それでも昨日より、ずっと自動化に近づいた。
できることと、任せられることは違う。
明日は、AIに何をしてもらうかではなく、
自分は何をしなくてよくなるのか
から考えてみよう。
前の話
第3話「提案書が真っ白」
シリーズ一覧へ全エピソード次の話
第5話「で、結局どれがいいんですか?」