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黒田室長はAIを教えない 外伝

美咲は今日もAIに話しかける

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メール、全部読んでから仕事してませんか?

大量の受信メールを次の行動で分類し、優先順位付けから定時実行へ。AIに任せる仕事と人が判断する仕事の境界線を学ぶ。

読了時間 約11メール仕分け・定時自動化

午前8時53分。

美咲はコーヒーを机に置き、パソコンを開いた。

メールソフトを起動する。

そして。

「…………」

受信トレイの数字を見た。

未読 87件

「昨日、帰るときゼロだったよね?」

もちろんメールは答えない。

昨夜から今朝にかけて届いたメールが並んでいる。

取引先。社内。システム通知。CC。メルマガ。営業案内。会議変更。資料送付。

件名だけでは何なのか分からないメール。

「よし……」

美咲は一番上のメールを開いた。

読む。閉じる。次。読む。閉じる。次。

「これは後で」

「これは返信必要」

「CCだけか」

「……メルマガ」

5分後。

未読 74件

「13件しか減ってない……」

そのとき、後ろから声がした。

「朝から何やってる」

黒田室長だった。

「メールです」

「見れば分かる」

「87件来てるので、順番に読んでます」

黒田は画面を見る。

そして言った。

「その87件、本当に87件とも“読む仕事”なのか?」

読む前に「分ける」

「メールなんだから読まないと分からなくないですか?」

「じゃあ今読んだ13件、全部同じ重要度だったか?」

「いや……全然違います」

美咲はメールを届いた順番で読んでいる。

でも、届いた順番と仕事の重要度には何の関係もない。

「じゃあ、どうするんです?」

「知らん」

「絶対知ってる顔してる」

美咲はAIを開いた。

美咲、87件をAIに渡す

最初に思いついたのは、いつもの方法だった。

このメールを全部要約してください。

入力しようとして、美咲は手を止めた。

第6話で黒田に言われたことを思い出した。

目的がない要約は、短くなっただけの資料だ。

「……違うな」

これから受信メールの一覧を渡します。
私が今日仕事を進めるために、メールを分類してください。

AIが分類した。

重要 / 普通 / 重要 / 重要 / 普通 / 低

「……重要、多くない?」

黒田が遠くから言った。

「重要って何だ」

確かに、**「重要」**だけでは何をすればいいのか分からない。

「重要」では仕事にならない

美咲は考えた。

返信する。今日中に対応する。期限を覚える。誰かの対応を待つ。読むだけ。捨てる。

分類したいのはメールの内容ではない。

次に何をするかだ。

メールを次の6種類に分類してください。

A:今日中に対応が必要
B:期限あり
C:返信が必要
D:他の人の対応待ち
E:情報共有のみ
F:広告・メルマガ・自動通知

判断できない場合は、勝手に分類せず「要確認」にしてください。

各メールについて、送信者・件名・分類・期限・必要な対応を一覧にしてください。

今度は違った。

A:今日中に対応

取引先A社 — 見積書について確認 / 期限:本日15時 / 見積条件を確認して返信

B:期限あり

総務部 — 来月の研修参加について / 期限:8月28日 / 参加可否を回答

D:他の人の対応待ち

システム担当 — 設定変更について / 担当者の作業完了後に確認

E:情報共有のみ

営業部長 — 来月の営業方針 / 内容確認のみ

F:対応不要

メルマガ。システム通知。営業案内。自動配信。

「……87件が、仕事になった」

黒田が言う。

「メールだったものが、だろ」

87件全部を読む必要はなかった

今日中に対応:5件 / 期限あり:8件 / 返信必要:7件 / 他の人の対応待ち:11件 / 情報共有のみ:23件 / 対応不要:29件 / 要確認:4件

87件もあったのに、今すぐ見るべきメールは5件。

「私……29件の広告とか通知まで順番に開いてました」

「ご苦労なことだ」

「もっと優しく言えません?」

「29件開いたら優しくなるのか?」

「なりません」

でも、毎朝これをやるの?

午前9時26分。

「これ、めちゃくちゃ便利ですね。明日から毎朝これやります」

黒田の手が止まった。

「毎朝メールをAIに渡して、同じ指示を書いて、同じ分類をさせる?」

「……はい」

「それ、自動化できないのか」

美咲の目が止まった。

AIを使うことと、AIで自動化すること

毎朝やることは同じ。

受信メールを見る。条件に従って分類する。今日対応するものを抽出する。一覧にする。

「何時にメールを見る?」

「だいたい9時です」

「分類ルールは?」

「毎日同じです」

「出力形式は?」

「同じでいいです」

黒田は言った。

「同じ時間に、同じ条件で、同じ仕事をするなら、人間が毎回スタートボタンを押す必要はない。」

これまでは、自分がAIに話しかけていた。

でも毎日決まった仕事なら、AIから仕事を始めてもらえばいい。

毎朝9時に整理してもらう

毎朝9時。受信メールを確認。分類。今日対応すべきものを抽出。一覧にする。

「室長。返信も自動でやってもらえば、もっと楽じゃないですか?」

「やめろ」

「早い」

「メールを分類するのと、会社を代表して外部に文章を送るのは同じ仕事か?」

「……違いますね」

「AIが取引先に『その条件で問題ありません』って勝手に送ったら?」

「困ります」

「納期変更を了承したら?」

「もっと困ります」

「金額を確定したら?」

「止めます」

美咲は理解した。

自動化には「境界線」が必要

黒田はホワイトボードに線を引いた。

左側にAI、右側に人間

AI側。

受信する / 分類する / 期限を抜き出す / 要約する / 優先順位を付ける / 返信案を作る

人間側。

内容を確認する / 判断する / 約束する / 承認する / 送信する

「全部自動化するのが正解じゃないんですね」

「当たり前だ」

「できるかどうかじゃなくて、任せていいかどうか

黒田がうなずいた。

「緊急」の意味も決めておく

AIに**「緊急メールを優先してください」**と頼むだけでは曖昧だ。

緊急扱い

・本文に「本日中」「至急」「緊急」と記載
・今日が回答期限
・主要取引先からの返信依頼
・障害やトラブルに関する連絡
・会議時間や場所の当日変更

ただし、AIが重要そうだと思っただけでは勝手に緊急扱いしない。

判断できないメールは「要確認」へ。

「これなら安心ですね」

「安心するな。分類ミスはある。だから、最終確認する場所を残す」

翌朝 9時02分

未読 63件。

一瞬、昨日までの癖で一番上を開きそうになる。

そのとき、AIから朝の整理結果が届いた。

今日のメール整理

最優先:3件

  1. A社:契約書修正版の確認 — 期限11:00 / 内容確認・返信
  2. B社:本日の打ち合わせ時間変更 — 14:00 → 15:30 / 予定確認
  3. 営業部長:月次数字の確認依頼 — 期限17:00 / 集計結果確認

期限あり:6件 / 返信必要:4件 / 対応待ち:9件 / 情報共有:18件 / 対応不要:20件 / 要確認:3件

美咲は一番上のメールを開かなかった。

最優先3件から確認した。

午前9時18分。

今日最初に対応すべき仕事が決まった。

昨日はメール整理だけで30分以上かかっていた。

しかも今日は、自分で分類作業をしていない。

午前9時31分

黒田が出社した。

「室長。今日、メール63件でした。でも3件しか最初に見ませんでした」

「残りは?」

「必要になった順番で見ます」

「AIが毎朝整理してくれるようにしました」

「返信は?」

「自動送信してません」

「判断は?」

「私です」

「ならいい」

美咲が呼び止める。

「昨日までは、AIって呼び出して使うものだと思ってました。でも毎日同じ仕事なら、AIの方から仕事を始めてもらってもいいんですね

黒田は少しだけ笑った。

「やっとそこまで来たか」

そして続けた。

「AIを使う時間まで、人間が使う必要はない。」

「それ、美咲AIノートにいただきます」

MISAKI AI NOTE 08

「毎回同じなら、AIに仕事を始めてもらう」

AIを仕事で使い始めると、毎日同じプロンプトを入力していることがある。

それは、自動化できる仕事かもしれない。

① 「全部読む」前に分類する

メールが80件あるからといって、80件すべてが同じ重要度ではない。

最初に、何を優先するかを整理する。

② 「重要」の意味を決める

「重要なメールを選んでください」だけでは曖昧。

今日中に対応 / 期限あり / 返信必要 / 他の人の対応待ち / 情報共有のみ / 対応不要

のように、仕事として次に何をするかで分類する。

③ 毎回同じなら定時実行する

同じ時間 / 同じ情報 / 同じ判断基準 / 同じ出力形式でAIを使っているなら、毎回人間が開始する必要があるか考える。

定型化できる部分は、決まった時間に自動で実行する。

④ 「自動化していいところ」を決める

AIに任せる:メールの分類、期限抽出、要約、優先順位付け、返信案の作成。

人間が行う:内容確認、判断、承認、約束、送信。

特に外部へのメールでは、「返信案を作る」ことと「送信する」ことは別の仕事。

今日、美咲がAIに話しかけたこと

毎朝、受信メールを確認して、今日対応すべきメールを整理してください。

A:今日中に対応が必要
B:期限あり
C:返信が必要
D:他の人の対応待ち
E:情報共有のみ
F:広告・メルマガ・自動通知

判断できない場合は推測せず、「要確認」にしてください。

各メールについて、送信者・件名・分類・期限・必要な対応を整理してください。

最後に、今日最初に確認すべきメールだけを優先順位順に表示してください。

メールの送信、削除、返信、承認などは行わず、分類と整理だけをしてください。

AIを使う。

その次は、AIを使う作業そのものを減らせないか考える。

毎日同じ仕事なら、AIに仕事を始めてもらう。

それが今回の美咲の一歩。

美咲は今日も、AIに話しかける。

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