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黒田室長はAIを教えない 外伝

美咲は今日もAIに話しかける

7

何を聞かれるんだろう……

AIを部長・経理・現場など『反対側の席』に座らせ、想定質問と模擬質疑を通じて提案の弱点や不足している根拠を見つける。

読了時間 約13会議準備・模擬質疑

午後5時12分。

美咲は完成したPowerPointを眺めていた。

全18ページ。

課題。

現状分析。

改善案。

導入スケジュール。

費用。

期待効果。

昨日まで何度も修正して、ようやく完成した提案資料だった。

「……できた」

美咲は椅子の背もたれに体を預けた。

明日の午前10時。

部長、経理部、営業部の責任者が集まる会議で、この提案を説明する。

資料はできた。

数字も確認した。

誤字もない。

説明する内容も頭に入っている。

なのに。

美咲はPowerPointを閉じなかった。

「…………」

なんとなく不安だった。

資料の7ページ目を見る。

費用対効果。

11ページ目。

導入スケジュール。

14ページ目。

運用体制。

そして、つぶやいた。

「何を聞かれるんだろう……」

資料は完成した。でも会議は完成していない

美咲が一番苦手なのは、説明ではなかった。

質疑応答だった。

準備した内容なら話せる。

でも突然、

「その数字の根拠は?」

「別の方法じゃダメなの?」

「現場の負担は増えない?」

と聞かれると、頭が真っ白になる。

以前の会議でもそうだった。

資料説明までは順調。

ところが部長から、

「で、これを今やる理由は?」

と聞かれた瞬間、

「えーっと……」

が始まった。

その記憶が蘇る。

「嫌だ……」

美咲は机に突っ伏した。

そのとき。

「何が嫌なんだ」

聞き慣れた声がした。

美咲は顔を上げる。

黒田室長だった。

「明日の会議です」

「資料できてないのか?」

「できました」

「じゃあ何だ」

「質問されるのが怖いんです」

黒田は美咲のPowerPointを見る。

「質問されなければいいのか?」

「最高です」

「それは会議じゃない」

「ですよね」

美咲、AIに答えを作らせる

美咲はAIを開いた。

「そうだ」

「何だ」

「AIに想定質問を作ってもらえばいいんですよ」

黒田は何も言わない。

美咲は入力した。

明日の会議でこの提案を説明します。
想定される質問と回答を作ってください。

AIが回答する。

想定質問1
導入によってどのような効果が期待できますか?

回答例
業務効率化によって作業時間を削減し、生産性向上が期待できます。

想定質問2
導入にはどの程度の期間が必要ですか?

回答例
準備期間を含め、約2か月を予定しています。

想定質問3
費用はいくらですか?

回答例
初期費用と月額利用料が必要です。

美咲は満足そうに言った。

「ほら」

黒田が画面を見る。

「これで安心か?」

「……まあ」

「本当に?」

「…………ちょっとだけ」

美咲自身も分かっていた。

質問が、

優しすぎる。

会議には「立場」がある

黒田が言った。

「明日の会議、誰がいる?」

「部長と経理部と営業部です」

「全員、同じことを聞くと思うか?」

「……違いますね」

「部長は何を見る?」

美咲は考える。

「会社としてやる意味」

「経理は?」

「お金」

「営業部は?」

「実際に使えるかどうか」

黒田がうなずく。

「だったらAIにも、その席に座ってもらえばいい」

「席?」

黒田は美咲の画面を指した。

「AIに答えを作らせるだけじゃない」

そして言った。

「反対側の席にも座らせろ。」

AIに「部長」になってもらう

美咲はプロンプトを書き直した。

あなたは、この提案を承認するか判断する事業部長です。

私が添付した提案資料を読んで、承認前に確認したいことを質問してください。

特に、
・なぜ今やる必要があるのか
・会社にどんなメリットがあるのか
・投資に見合う効果があるのか
・失敗した場合のリスク
を厳しく確認してください。

まず質問を1つだけしてください。
私が回答したら、その回答を評価して次の質問をしてください。

AIが答えた。

質問1
この施策を「今」実施する必要がある理由を説明してください。
半年後ではいけないのでしょうか?

「うわ」

美咲が言った。

「嫌な質問きた」

黒田が笑う。

「答えろ」

美咲は入力した。

現在、営業担当者が毎月かなりの時間を集計作業に使っているため、早く改善した方がいいと考えています。

AIが返す。

方向性は理解できますが、「かなりの時間」では判断材料として弱いです。

現在どの程度の工数が発生していて、半年延期するとどの程度の損失になるのかを数値で説明できると、実施時期の妥当性が伝わりやすくなります。

美咲の手が止まった。

「……確かに」

資料を確認する。

営業担当20人。

月平均3時間。

半年なら、

20人 × 3時間 × 6か月。

360時間。

美咲は回答を書き直した。

次は「経理部」

美咲は少し面白くなってきた。

次は経理責任者の立場になってください。
この提案について、費用対効果を中心に厳しく質問してください。

AIが答える。

初期費用120万円、年間利用料180万円とのことですが、年間300万円を投じるだけの効果をどのように測定しますか?

「来た……」

美咲は資料を見る。

「削減時間……?」

回答する。

AIから追加質問。

削減した時間が、そのまま300万円の利益になるわけではありません。
削減された時間を何に使う想定でしょうか?

「ぐっ……」

黒田が横から言う。

「いい質問だな」

「AIが敵に見えてきました」

「今はそれでいい」

美咲は考える。

単純な作業時間削減だけではない。

営業担当者が顧客対応や提案活動へ使える時間を増やす。

入力ミスの削減。

管理職の確認時間の削減。

月次集計の早期化。

美咲は回答を作り直した。

「現場担当者」はもっと厳しかった

最後は営業部。

美咲はAIに頼んだ。

次は実際にこの仕組みを使う営業担当者になってください。

「会社にはメリットがあっても、自分たちの仕事が増えるなら嫌だ」という立場から質問してください。

AIが答えた。

今までExcelに入力していた内容を、新しいシステムにも入力する必要がありますか?
二重入力になるなら、むしろ作業が増えるのではないでしょうか?

「…………」

美咲は資料を確認した。

書いていない。

「室長」

「なんだ」

「これ、確認してませんでした」

「じゃあ明日聞かれたら?」

「詰んでました」

「今日詰んでよかったな」

「言い方」

美咲はすぐにシステム担当者へ確認する項目としてメモした。

AIと模擬会議をする

美咲はさらに一歩進めた。

これから模擬会議をします。

あなたは次の3人を順番に演じてください。

・事業部長
・経理責任者
・営業現場の責任者

私の回答が曖昧だった場合は、そのまま次の質問へ進まず、追加質問をしてください。

回答のたびに、
「説得力」
「具体性」
「根拠」
の3項目を5点満点で評価してください。

では会議を始めてください。

AIが質問する。

美咲が答える。

AIが評価する。

説得力:3/5
具体性:2/5
根拠:2/5

「厳しい!」

次の質問。

回答。

説得力:4/5
具体性:4/5
根拠:3/5

「上がった」

また質問。

回答。

追加質問。

さらに回答。

気づけば、美咲は30分以上AIと話していた。

「答え」を覚える練習ではない

美咲はAIが作った回答例を見ながら言った。

「これ、全部覚えた方がいいですかね」

黒田が即答した。

「やめろ」

「え?」

「想定問答を暗記すると、少し質問が変わっただけで答えられなくなる」

「じゃあ何を覚えるんです?」

「答えじゃない」

黒田は美咲のメモを見る。

「根拠だ」

なぜ今やるのか。

何が改善するのか。

いくらかかるのか。

どんなリスクがあるのか。

誰にどんな影響があるのか。

それが自分の中で整理されていれば、質問の言い方が変わっても答えられる。

美咲はAIに最後の依頼をした。

これまでの模擬会議から、私が回答に詰まったテーマを整理してください。

回答例ではなく、明日の会議までに確認しておくべき「根拠」と「数字」を一覧にしてください。

AIが整理した。

美咲はそれを見ながら、元資料を確認していった。

翌朝 9時56分

会議室。

美咲の前には、部長、経理責任者、営業部長。

昨日AIに座ってもらった席と、ほぼ同じだった。

美咲は提案を説明する。

15分後。

説明終了。

部長が口を開いた。

「一つ聞きたいんだけど」

来た。

美咲は少し緊張する。

「これ、半年後じゃダメなの?」

美咲は一瞬だけ驚いた。

昨日と同じだ。

でも暗記した回答を思い出したわけではない。

美咲は答えた。

「現在、営業担当20名が月平均約3時間を集計作業に使っています」

資料を切り替える。

「半年延期すると、単純計算でも約360時間が同じ作業に使われます。その時間を顧客対応や提案準備に戻せることが、今実施したい一番の理由です」

部長がうなずく。

次に経理責任者。

「300万円かける効果をどう測る?」

これも昨日やった。

営業部長からは、

「現場の入力作業、増えない?」

それも来た。

全部、まったく同じ質問ではない。

でも、

何を確認されているのかが分かる。

美咲は落ち着いて答えた。

会議終了

午前11時08分。

美咲は会議室から出た。

黒田が廊下にいた。

「どうだった」

「質問されました」

「そりゃされる」

「でも」

美咲は笑った。

「昨日より怖くなかったです」

「AIが答えてくれたか?」

「いいえ」

美咲は首を振った。

「AIには昨日、質問する側をやってもらいました」

黒田はうなずいた。

「それでいい」

美咲は少し考えて言った。

「AIって、答えを聞くものだと思ってました」

「それだけじゃない」

「質問してもらう使い方もあるんですね」

「人間は、自分が見えている範囲からしか質問を作れないからな」

黒田は歩き出す。

そして振り返らずに言った。

「本番で初めて困るくらいなら、AI相手に先に困っておけ。」

美咲はスマートフォンを取り出した。

「それ、今日の美咲AIノートにもらいます」

「勝手にしろ」

MISAKI AI NOTE 07

「AIを“反対側の席”に座らせる」

AIは、質問に答えてもらうためだけの道具ではない。

会議やプレゼンの前なら、

AIに質問する側をやってもらう。

ポイントは、単に、

「想定質問を作って」

だけで終わらせないこと。

① 相手の立場を指定する

同じ提案でも、立場によって気になることは違う。

経営者
→ なぜやるのか、効果、リスク

経理
→ 費用、回収、数字の根拠

現場
→ 本当に使えるか、仕事が増えないか

AIに立場を渡すと、質問の角度が変わる。

② 質問は1問ずつ

質問一覧を眺めるだけでは練習になりにくい。

AIに1問ずつ質問してもらい、

自分で回答する。

そのあとAIに、

「今の回答の弱いところを指摘して」

と頼む。

③ 曖昧な回答には追加質問させる

「効率化できます」

「効果があります」

「負担は減ります」

では弱い。

AIに、

「曖昧なら追加質問してください」

と指定すると、考えが足りない部分が見えてくる。

④ 回答例ではなく「根拠」を残す

想定回答を丸暗記するのではなく、

数字
事実
判断理由
リスク
前提条件

を整理する。

質問の言い方が変わっても、根拠があれば答えられる。

今日、美咲がAIに話しかけたこと

明日の提案会議の模擬練習をしてください。

あなたは次の3人を順番に演じてください。

・事業部長
・経理責任者
・実際に利用する現場責任者

それぞれの立場から、この提案の弱いところを確認する質問をしてください。

質問は1回につき1つだけにしてください。

私が回答したら、

・説得力
・具体性
・根拠

をそれぞれ5点満点で評価してください。

回答が曖昧な場合は次へ進まず、追加質問をしてください。

最後に、私が回答に詰まったテーマと、本番までに確認すべき数字・根拠を整理してください。

では、事業部長から始めてください。

AIに答えを聞くだけではなく、

ときにはAIに質問してもらう。

本番で初めて困るくらいなら、

AI相手に先に困っておく。

それが今回の美咲の一歩。

美咲は今日も、AIに話しかける。

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