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黒田室長はAIを教えない 外伝

美咲は今日もAIに話しかける

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それ、本当に合ってますか?

AIによる競合調査を題材に、出典・情報時点・一次情報を確認し、事実と推測を分けてファクトチェックする方法を学ぶ。

読了時間 約10AI調査・ファクトチェック

午前10時12分。

「美咲、午後の会議までに競合3社のサービスを調べておいて」

営業部長がそう言って、美咲の机にメモを置いた。

「料金、主な機能、導入企業、それと自社との違い。ざっくり比較できればいい」

「分かりました」

午後の会議は15時。

残り5時間弱。

以前の美咲なら、検索して、各社のサイトを開いて、料金ページを探して、Excelに貼り付けていた。

でも今は違う。

「こういうときこそAIでしょ」

美咲はAIを開いた。

A社、B社、C社のサービスについて、料金、主な機能、導入企業、自社サービスとの違いを比較表にしてください。

数十秒後。

きれいな表ができた。

料金。機能。導入企業数。特徴。向いている企業。

「……速っ」

美咲は思わず笑った。

「これ、もう終わったんじゃない?」

その声に、通りかかった黒田室長が止まった。

「何が終わった」

「競合調査です。AIに聞いたら一瞬でした」

黒田は画面を見る。

「A社、月額3万円から?」

「はい」

「いつの料金だ」

「……え?」

AIの答えには「いつ」がない

美咲はA社の公式サイトを開いた。

料金ページ。

月額5万円から。

「違う……」

料金改定のお知らせを見る。

3か月前に価格が変更されていた。

「じゃあB社は?」

導入企業数についてAIは2,000社以上と書いている。

公式サイトには3,500社以上

「増えてる」

C社のサービス名を検索する。

「……室長」

「なんだ」

「このプラン、もう終了してます」

黒田は言った。

「で、その調査は終わったのか?」

「始まったところでした」

AIに調べさせることと、AIを信じることは別

「でも、なんでこんなに自然に間違えるんですか?」

「AIは『分かりません』だけを返す機械じゃない」

「知ってる情報から、それらしい答えを作ることもある」

「しかも情報が古いこともある」

美咲は完成したと思っていた比較表を見た。

見た目は完璧だった。

だからこそ怖い。

間違っている部分だけが、間違っている顔をしていない。

黒田が言う。

「AIに調べさせることと、AIを信じることは別だ。」

「答え」ではなく「根拠」を出してもらう

美咲はプロンプトを書き直した。

A社、B社、C社について、料金、主な機能、導入実績を比較してください。

各項目について、確認できる出典URL、情報の公開日または更新日、公式情報かどうかを併記してください。

出典を確認できない情報は、推測で補わず「確認できず」としてください。

事実と推測を分けて記載してください。

今度の回答は、さっきより地味だった。

「確認できず」がいくつもある。

でも美咲は、その方が安心できた。

「分からないものを分からないって出させるんですね」

「仕事では、きれいな間違いより、汚い未確認の方がマシだ」

「言い方はあれですけど、分かります」

出典があるだけでは足りない

美咲はAIが示したリンクを開いていった。

一つ目は比較サイト。

二つ目は個人ブログ。

三つ目は2年前の記事。

「リンクが付いてればOKじゃないんですね」

「誰が言った情報かを見ろ」

黒田はホワイトボードに書いた。

一次情報 → 公的・公式情報 → 信頼できる二次情報 → その他

「料金なら?」

「公式の料金ページ」

「サービス終了なら?」

「公式のお知らせ」

「会社の売上なら?」

「決算資料」

「法律なら?」

「省庁や法令」

「導入企業数なら?」

「公式サイト。ただし集計時点も見る」

「そういうことだ」

AIが見つけた情報を、そのまま証拠にするのではない。

証拠の場所まで案内してもらい、自分で確認する。

数字には「日付」を付ける

比較表を直していると、美咲は気づいた。

A社の導入企業数は3,500社。

B社は2,800社。

一見するとA社の方が多い。

でもA社の数字は2026年7月時点。

B社は2025年12月時点。

「これ、単純比較しちゃダメですね」

「やっと気づいたか」

数字には、数字だけでは見えない条件がある。

いつの数字か。何を数えた数字か。税込か税別か。累計か現在か。国内だけか海外を含むか。

美咲は比較表に列を追加した。

確認日 / 情報時点 / 出典 / 確認状態

表が少し横長になった。

でも、さっきよりずっと仕事で使える。

AIに「反対役」をさせる

午後1時40分。

比較表はほぼ完成した。

美咲は最後にAIへ投げた。

この比較表を、競合調査に厳しい上司の立場でレビューしてください。

特に次を確認してください。 ・出典が弱い情報 ・情報が古い可能性 ・比較条件が揃っていない数字 ・事実ではなく推測になっている表現 ・このまま会議で発言すると危険な箇所

問題がある箇所は「要再確認」としてください。

AIは3か所を指摘した。

そのうち一つ。

「B社は中小企業向けに強い」

美咲は自分が書いた文章を見た。

「これ、どこ情報だっけ……」

公式サイトには書かれていない。

導入事例を数件見て、美咲自身がそう感じただけだった。

「事実みたいに書いちゃってた」

美咲は修正した。

事実:公開されている導入事例では中小企業の事例が複数確認できる。

解釈:中小企業への導入に強みを持つ可能性がある。

黒田が横から見る。

「それならいい」

「事実と私の解釈を分ける」

「AIの解釈もな」

午後3時 会議

会議室のモニターに、美咲の比較表が映った。

営業部長がA社の料金を見る。

「これ、今5万円なんだ?」

「はい。3か月前に改定されています。公式料金ページと改定のお知らせを確認済みです」

「B社の3,500社って?」

「それはA社です。B社は2,800社ですが、情報時点が昨年12月なので単純比較はしていません」

「なるほど」

次の質問。

「じゃあ結局、どこが一番強い?」

美咲は少し考えた。

以前なら、AIの比較表に書いてあった結論をそのまま答えていたかもしれない。

「公開情報だけでは、一社を一番とは断定できません」

「ただ、価格、機能、導入実績の3軸で見ると、今回の提案先にはA社が最も競合になりそうです。これは公開情報をもとにした私の判断です」

営業部長がうなずいた。

「分かった。それなら次の提案に使える」

会議後

美咲は席に戻った。

「室長」

「なんだ」

「AIに調査を頼むと、答えをもらえると思ってました」

「違ったか」

「はい。AIにもらうのは、答えというより……調べるための地図ですね」

黒田はコーヒーを飲む。

「地図に道が描いてあっても、橋がまだあるとは限らん」

「今日の室長、ちょっと名言多くないですか?」

「仕事しろ」

美咲はノートを開いた。

そして書いた。

AIの答えではなく、根拠を持って帰る。

MISAKI AI NOTE 09

「AIの答えではなく、根拠を持って帰る」

AIは調査のスピードを大きく上げられる。

ただし、速く答えが出ることと、その答えが正しいことは別。

① 最初から出典を求める

「調べて」だけではなく、出典・公開日・公式情報かどうかまでセットで求める。

② 一次情報へ戻る

料金は公式料金ページ、決算数字は決算資料、制度は省庁・法令など、重要な情報ほど元の情報を確認する。

③ 数字には日付と条件を付ける

同じ「導入企業数」でも集計時点や定義が違えば単純比較できない。

④ 「確認できず」を許可する

AIに無理に答えを作らせない。確認できないものは未確認として残す。

⑤ 事実と推測を分ける

「公式に確認できた事実」と「AIや自分の解釈」を同じ文章に混ぜない。

⑥ 最後に逆方向からレビューする

出典が弱い、古い、条件が違う、推測が混ざる――そうした危険箇所をAI自身にも探させる。

実務で使えるプロンプト

競合調査の基本

次の企業・サービスについて比較調査してください。

比較項目:料金、主要機能、導入実績、対象顧客、特徴。

各項目に必ず以下を付けてください。

  1. 出典URL
  2. 公開日または更新日(確認できる場合)
  3. 公式情報か第三者情報か
  4. 確認できた事実か、推測・解釈か

出典を確認できない情報は推測で埋めず「確認できず」としてください。 可能な限り一次情報を優先してください。

調査結果のファクトチェック

以下の調査結果をファクトチェックしてください。

・出典がない主張 ・古い可能性がある情報 ・一次情報で確認した方がよい項目 ・比較条件が揃っていない数字 ・事実と推測が混ざっている表現 ・断定するには根拠が弱い表現

を抽出し、「問題点 / 理由 / 確認すべき一次情報」の3列で整理してください。 不明な点を推測で補完しないでください。

会議前の最終チェック

あなたはこの調査資料を初めて見る厳しい上司です。 このまま会議で説明した場合に質問されそうな箇所、根拠を求められそうな数字、断定が危険な表現を指摘してください。 特に危険なものには「要再確認」と付けてください。

AIが便利になるほど、確認する力の価値は下がらない。

むしろ上がる。

速く調べるのはAI。

何を信じるかを決めるのは人間。

それが、美咲が第9話で覚えたAIとの仕事の仕方だった。

前の話

第8話「メール、全部読んでから仕事してませんか?」

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