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黒田室長はAIを教えない

AI時代に一番大切な仕事の教科書

第6章

レビューはダメ出しじゃない

仕事を否定するのではなく、考えを磨くための対話。

読了時間 約10分公開日 2026年7月22日
  • レビュー
  • 対話
  • 成長

火曜日、午後四時。

営業部の会議室。

来月から始まる新サービスの提案書レビューが行われていた。

参加者は五人。

美咲。

蒼。

ベテラン営業の田辺。

若手の中村。

そして神崎部長。

黒田の姿だけがなかった。

— 「黒田さんは?」

蒼が周りを見渡す。

神崎部長が資料をめくりながら答えた。

神崎部長 — 「今日は人事部で研修。」

神崎部長 — 「レビューは営業部だけでやる。」

蒼は少し不安そうな顔をした。

— 「黒田さんがいないと……。」

美咲も同じ気持ちだった。

誰が問いを投げるのだろう。

誰が気付かせてくれるのだろう。

神崎部長 — 「じゃあ始めよう。」

神崎部長が言った。

美咲が提案書を説明する。

二十分ほどで説明は終わった。

部屋が静かになる。

以前なら、ここで誰かが言う。

「誤字があります。」

「図を大きく。」

「ここ分かりにくい。」

そんなレビューだった。

しかし誰も口を開かない。

黒田がいないだけで、空気が止まってしまった。

その沈黙を破ったのは、美咲だった。

佐藤美咲 — 「……質問。」

自分でも驚いた。

自然にその言葉が出ていた。

全員が美咲を見る。

佐藤美咲 — 「この提案。」

佐藤美咲 — 「誰が一番喜ぶんだろう。」

部屋の空気が変わる。

田辺が資料を読み返す。

田辺 — 「社長かな。」

中村が首を振る。

中村 — 「現場じゃないですか?」

蒼もページをめくる。

— 「いや、経理かも。」

議論が始まった。

誰も正解を言わない。

でも、全員が考え始めていた。

一時間後。

提案書は赤字だらけになっていた。

しかし、その赤字は以前とは違う。

誤字ではない。

「この表現で安心できる?」

「現場は本当に困ってる?」

「導入後のイメージが湧く?」

すべてがお客様目線だった。

レビューが終わる頃には、外は夕焼けに染まっていた。

神崎部長が資料を閉じる。

神崎部長 — 「今日のレビュー。」

神崎部長 — 「黒田さんがいなくてもできたな。」

蒼が笑う。

— 「いや。」

— 「いたと思います。」

神崎部長 — 「え?」

— 「みんな。」

— 「黒田さんみたいに質問してました。」

部屋が静かになる。

美咲は少し照れくさそうに笑った。

確かにそうだった。

誰も答えを言わない。

でも質問は増えていた。

翌朝。

黒田が営業部へ戻ってきた。

机の上には、レビュー後の提案書が置かれている。

赤字でいっぱいだった。

黒田はページをめくる。

しばらく何も言わない。

営業部の全員が少し緊張する。

やがて黒田が顔を上げた。

黒田 — 「いいレビューだった?」

美咲は笑顔で答えた。

佐藤美咲 — 「はい。」

佐藤美咲 — 「たぶん。」

佐藤美咲 — 「誰も。」

佐藤美咲 — 「ダメ出ししてません。」

黒田は静かにうなずいた。

黒田 — 「レビューって。」

少し間を置く。

黒田 — 「作品を否定する時間じゃない。」

さらに一口コーヒーを飲む。

黒田 — 「相手が成功する方法を。」

黒田 — 「みんなで探す時間。」

美咲はその言葉を聞いて、昨日の会議を思い出した。

誰も資料を壊そうとはしていなかった。

もっと良くしたい。

その気持ちだけだった。

だから、あの赤字は傷ではなく、

応援だったのだ。

午後。

お客様への最終提案。

レビューで追加した一枚の図を見た社長が、ゆっくりとうなずく。

社長 — 「これなら。」

社長 — 「導入した後まで想像できます。」

美咲は心の中で、小さくガッツポーズをした。

一人で作っていたら、この一枚は生まれなかった。

レビューで救われた。

そう思った。

営業部へ戻ると、蒼が笑顔で迎えた。

— 「どうでした?」

美咲は提案書を軽く持ち上げる。

佐藤美咲 — 「この契約。」

佐藤美咲 — 「私じゃなくて。」

佐藤美咲 — 「営業部で取ったね。」

その言葉に、誰も否定しなかった。

黒田も、静かに笑っていた。

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